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統合演習1 9~10回目

 東地判昭61・11・18金融商事判例773号

 下の判例を読む際の前提知識として、有益費償還請求権の放棄特約は無効であるとする説は、平成4 年8 月1 日に施行された借地借家法が、造作買取請求権を任意規定としたことから(借地借家法33 条、37 条)、その根拠を失っている点を知っておく必要がある。

       主   文

一、被告は、原告らに対し、別紙物件目録記載の建物を明渡せ。
二、訴訟費用は被告の負担とする。   
三、この判決は仮に執行することができる。

       事   実        

第一、申立
一、請求の趣旨   
  主文同旨      
二、請求の趣旨に対する答弁       
1 原告らの請求を棄却する。      
2 訴訟費用は原告らの負担とする。   
第二、主張     
一、請求原因    
1 原告らは、別紙物件目録記載の建物(以下本件貸室という。)の全共有者である。
2 原告らは、被告に対し、昭和五九年三月三〇日付賃貸借契約(以下本件契約という。)により、本件貸室を店 舗用として賃貸し、被告はこれを借受けた。
  被告は原告らに対し左記合計金を毎月末日までに、原告らの指定する銀行に振込み支払うとの約であった。 
(一)賃料金四六万五七〇円(翌月分)  
(二)共益費金一〇万四〇〇〇円(翌月分)
(三)看板使用料金一万円(翌月分)   
(四)本件貸室の使用に関連して生ずる光熱費等の諸経費(実費)(当月立替分)
3 また本件契約には、被告が前記の賃料または共益費の支払いを二カ月以上遅延したとき、または被告が右契約の各条項の一に違反したとき、原告らに、被告に対し、なんら通知、催告を必要としないで直ちに右契約を解除する権利が生ずる旨の特約が含まれていた。
4 被告は、約旨に反して前記各支払いを昭和五九年一〇月末日支払い分以降大幅に遅延し、滞納額は昭和六〇年六月末日現在金五七〇万二七一八円(元金)にのぼった。
5 そこで、原告らは被告に対し、前記三の特約に基づき書留内容証明郵便を以って本件契約を解除する旨の意思表示をなし、右意思表示は、昭和六〇年七月一七日、被告に到達した。予備的に、昭和六一年六月二四日の本件口頭弁論期日において本件契約を解除する旨の意思表示をする。
6 よって、本訴におよんだ。      
二、請求原因に対する認否        
 1 請求原因1の事実は不知。      
 2 同2、3の事実のうち賃貸人が原告ら全員であるとの点は否認し、その余の事実は認める。賃貸人はUS遺族代表の原告UJである。
 3 同4の事実は認める。        
 4 同5の事実のうち原告USからその主張のとおり通告を受けたことは認める。
三、抗弁
 1 被告は本件貸室につき、次のとおり二回にわたりいずれも原告の承諾を得て改装及び内装工事を施工した。
 (一)本件貸室は、前賃借人が経営していたクラブ様式であったのを原告らが全部取壊して、いわゆる裸貸として被告に賃貸したものであり、被告は本件貸室でいわゆる「パブ」を経営する計画であったので貸借して直ちに右貸室をパブ向けにするため別表(一)のとおり、貸室の全面的な改装・内装工事を施工した。なおこの当時の実質経営者は被告会社代表取締役NSであった。
 (二)その後前記NSが幾多の不正行為を働き逐電したので、やむなく昭和五九年一二月より被告会社の現代表取締役TSが実質経営に乗り出したが、その際あらためて別表(二)のとおり、改装・内装工事を施行した。
 (三)被告が右1、2の各改装・内装工事に支出した費用の合計は金四六五四万一五一〇円である。
 2 以上のとおり、被告は本件貸室につき、改装・内装工事を施行し、その結果本件貸室の価値が増加したから右工事に費やした合計金四六五四万一五一〇円を有益費として原告らに償還請求する。 
 3 従って、被告は右有益費の支払があるまで本件貸室につき留置権を有するので原告らに明渡す義務はない。
四、抗弁に対する認否
 1 抗弁1の事実のうち、本件貸室を裸貸したとの点を認め、その余の事実はいずれも不知。
 2 同2は争う。被告主張の改装・内装工事によって本件貸室に付加された物件は本件貸室の構成物件とはなっておらず、独立性を保っているので有益費償還請求権は成立しないまた、本件貸室の特殊性からも右工事によって本件貸室の価値が増加した事実はない。
 3 同3は争う。
五、再抗弁
 本件契約には被告主張の有益費償還請求権を放棄する旨の特約が存在する。
六、再抗弁に対する認否
 その旨の放棄条項が本件契約の契約書に記載されていることは認めるが、それは例文であって当事者の真意ではない。
七、再々抗弁
 有益費償還請求権の放棄は借家法六条の規定の趣旨に照らし、ないし民法九〇条により無効である。
 また、被告が施行した改装・内装工事の結果が有益費に当らないとすれば、それは造作であるから、被告は原告らに対しこれを金四六五四万一五一〇円で買取ることを請求するとともに、右代金の支払がなされるまで、造作及び本件貸室を留置権に基づき留置するので原告らの明渡請求に応ずる義務がない。いずれにせよ、原告らの請求は権利濫用として許されない。
八、再々抗弁に対する認否
  争う。       
第三、証拠〈略〉  
       理   由
一、1 請求原因1の事実は成立に争いない甲一、二号証により認められる。
 2 同2、3の各事実のうち、本件契約の賃貸人が原告ら全員であることは、前記1の認定事実により認められ、その余の事実は当事者間に争いがない。 
 3 同4の事実は当事者間に争いがない。 
 4 同5の事実のうち、原告USから被告宛その主張のとおりの契約解除の通告がなされたことは当事者間に争いがなく、前記2認定の事実によれば、右通告は賃貸人たる原告ら全員の意思に基づいてなされた意思表示であると認めるのが相当である。
二、抗弁事実のうち、本件貸室は前賃借人が経営していたクラブ様式であったのを、原告らが全部取壊し、いわゆる裸貸として被告に賃貸したものであることは当事者間に争いがなく、被告が本件貸室を賃借後、パブ向けに改装・内装工事した事実は弁論の全趣旨により認められる。
三、被告は右二認定の工事施行により、本件貸室の価値が増加したので、原告らに対し、それを有益費として償還請求すると主張し、これに対し原告らは本件契約には有益費償還請求権を放棄する旨の特約があると主張(再抗弁)するので判断する。
 1 本件契約を締結する際、当事者双方で取交わした契約書(甲一号証)中に右原告ら主張のとおりの特約条項が存在することは当事者間に争いがない。被告は、右条項をもって例文であり、当事者の真意を伴わないものと主張するが、前記二のとおり、本件貸室がいわゆる裸貸として賃貸されたもの、使用目的も営業用店舗であることに照らせば、右条項をもって例文であるとは解し難いというべく、右特約条項どおりの合意が当事者間に成立したと認めるのが相当である。
 2 ところで、被告は有益費償還請求権は借家法五条、六条に照らし、予め放棄することは許されないと主張するので検討するに、造作買取請求権は、賃借人が建物に付加した造作について、特にこれが独立の存在を有し、賃借人の所有に属することから、賃借人に対し投下資本を回収する便を与え、造作そのものの社会経済的価値の減少を防止するために認められたものであり、つまりは、造作が独立の存在を有し、これについて借家人に所有権が帰属していることに注目して特に借家人保護のため借家法が強行法規としての性質を与えているに反し、有益費償還請求権は、借家人が建物の改良等に支出した有益費を借家人に償還せしめるものであって、借家人が右支出によって建物に付加した部分は独立の存在を有するものではなく、従って当該部分の所有権は借家人ではなく、建物と一体となって建物所有者に帰属するものであって、右請求権の本質は任意法規である不当利得返還請求権に由来しているものであり、両者は経済的には賃借人の建物に対する投下資本の回収という点では共通するものの、法律的にはその根拠ないしは本質を異にするものであるうえ、造作買取請求権の場合にはその目的物が賃貸人の同意を得て付加したもの、あるいは賃貸人から買受けたものに限られるのに対し、有益費償還請求権については有益費という限度があるほか、賃貸人の意思如何を問わず認められるものであり、従って、これを強行法規と解すると、賃貸人に苛酷な結果を強いることになり、かえって建物賃借権の円滑な設定を阻害するおそれもあること等を併せ考えると、有益費償還請求権については明文の規定がないのに単に経済的には同一の作用を営むという点だけをとらえて造作買取請求権と同様強行法規であるとみることはできず、任意法規と解するのが相当である。従ってこれが予めの放棄も有効であるというべきであるから、被告の前記主張は理由がない。しかして、民法九〇条による無効の主張も失当というべきである。※1
四、被告は、有益費償還請求権が認められないとすれば造作買取請求権を行使すると主張(再々抗弁)する。
 しかしながら、造作買取請求の制度は、誠実な借家人の保護を主たる目的とするものであるから、前記一、3、4のとおり本件契約が被告の債務不履行(賃料不払)を理由に解除されたといった本件の場合には、被告からの造作買取請求権は否定すべきである。
 なお、仮に本件につきそれを認め得る余地があるとしても、造作買取代金債権が造作に関して生じた債権であり、建物に関して生じた債権ではないのであって、また建物に付属する従たる造作の引渡義務について有する同時履行の抗弁権に基づいて、主たる建物について明渡を拒絶する権利を認めるのは、契約当事者の公平な保護を目的とする同時履行の趣旨に反するというべきであるから、造作買取請求権の行使をもって、被告が原告らからの右造作代金の支払があるまで本件貸室の明渡を拒むことは許されないというべきである。
五、以上の次第であるから、被告の施行した改装・内装工事の内容等につき判断するまでもなく、被告の前記抗弁ないし再々抗弁は、いずれも原告らの明渡請求を拒む正当な理由とはならず、また、原告らの右請求をもって本件につき権利濫用と認め得る余地はない。
六、よって、原告らの請求は理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を、仮執行の宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。



 ※1 平成4 年8 月1 日に施行された借地借家法は、造作買取請求権と有益費償還請求権との機能面での同質性に着目して、できるだけ統一的な解釈・運用を図るべきであるという学説からの批判を踏まえて、造作買取請求権を有益費償還請求権に引き寄せる形で任意規定とした。

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